AIとCRMのグローバルリーダー、セールスフォース・ジャパン(以下、Salesforce)。同社はコアバリューの一つである「Equality(平等)」を軸に従業員体験とエンゲージメント向上に取り組んでいます。今回は、DE&I領域で豊富な経験を持つ蓮見勇太さんに話を伺いました。
■ 記事のポイント
・コアバリューとしてあらゆる人が「平等(Equality)」であることを重視・AI活用において、誰も取り残さない支援と学びの機会を提供・従業員サクセスと体験の向上を軸に、制度や福利厚生を設計
株式会社セールスフォース・ジャパンDirector, Office of Equality & Engagement, 日本韓国台湾地域統括責任者
蓮見勇太(はすみ・ゆうた)
ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)の領域で業界をリードする。現在、Salesforce Office of Equality & Engagementの日本韓国台湾地域の統括責任者を務める。DE&I領域において15年以上のキャリアを有し、グローバル企業においてDE&I戦略を通じ、企業文化変革を推進。Salesforceへ参画する前は、ロンドンにてDE&I経営コンサルティング会社を設立し、150社を超える組織のDE&Iビジネス変革、インクルーシブな職場環境醸成、多様な人材の育成およびブランディングを支援した。早稲田大学商学研究科MBA修了、また同大学法学部卒業。
――Salesforceでは、経営戦略において「平等(Equality)」を重要な基盤に据えています。Equalityの概念と位置づけについて、教えてください。
蓮見さん:Salesforceには大事にしている5つのコアバリューがあります。「信頼」「カスタマーサクセス」「イノベーション」「サステナビリティ」、そして「平等」です。いかなる価値観やバックグラウンド、ジェンダーの人も、平等であることを創業当時から大事にしています。
また、当社はAIのリーディングカンパニーとして、人とAIエージェントが協働し、人間の可能性を拡大する新しい働き方「エージェンティック エンタープライズ(Agentic Enterprise)」の実現を目指しています。テクノロジーが進化していく過程では、機会やスキルの格差が生まれやすいと言われていますが、イノベーションやビジネスの成長には、すべての人々がAIのスキルアップをする平等な機会や経験に恵まれることが不可欠です。エージェント型AIは、AIのイノベーションの第三波といわれていますが、そのようなAI時代において、誰もが安心してありのままの自分で活躍できる環境作りに取り組んでいます。
――Equalityの中の1つのテーマであるジェンダー平等については、どのように取り組まれていますか。
蓮見さん:IT業界全体においては、女性の割合が依然として低いという課題があります。当社では、ジェンダー平等を実現するため、特に意思決定に関わる層での女性比率向上を目指し、女性従業員比率30%、部長クラス以上の管理職比率20%という目標を掲げています。また、女性の数を増やすだけでなく、キャリアの中で多様な体験を積む機会を提供し、エンゲージメントを高めていくことを重視しています。
従業員一人ひとりが自分らしく活躍できる職場体験を実現するために、Equalityの施策が形式的なものに終わらないよう、従業員の声に耳を傾けています。従業員の声を傾聴し、集めた声をもとにデータで分析・可視化することで、より充実させるべき領域や改善の余地を明確にし、継続的に施策をアップデートしています。当社には女性社員とそのアライ(理解者/支援者)が参加する「Salesforce Women’s Network(SWN)」というグループがあり、女性のエンパワーメントやキャリア開発を従業員自らも主導し推進しています。
毎年3月の「国際女性デー」ではジェンダー平等とアライの重要性を発信するイベントを開催しています。また、2025年6月にはSWNが主導して女性のための採用イベント「Trailblazing Women Summit」を東京で初開催しました。「AI時代における女性のリーダーシップ」をテーマに、日本のトップ企業を牽引する女性リーダーが集い、互いにエンパワーし合うと同時に、新たな採用機会の創出にもつなげることができました。
――女性管理職を育成する取組についても教えてください。
蓮見さん:8カ月間の「スポンサーシッププログラム」を実施しています。経営陣・役員をスポンサー、女性幹部候補リーダーをスポンシーとしてペアリングし、次期女性幹部を育てる試みです。一般的なメンター制度がアドバイスや相談対応などにとどまるのに対し、スポンサーはキャリア開発から次のキャリアステップの実現まで責任を持って伴走する点が特徴です。このプログラムによって女性幹部候補の社内での可視化が高まる一方、役員側も新たな才能を発掘する機会となっています。
育成プロセスでは、まず本人が描くキャリア像を明確にし、必要なスキルや経験を特定した上で8カ月間スポンサーが伴走します。プログラムの中には、自己肯定感を高めるセッションや、役員の意思決定を間近で見学する「シャドーイング」といった実践的な体験も提供しています。
――AI時代に取り残されないための具体的な取組や、AIを活用した顧客体験向上、Equality実現の施策について教えてください。
蓮見さん:Equalityの推進がビジネスや社会に良い影響を与えることをデータで可視化しています。例えば、従業員サーベイの結果から、エンゲージメントが高い社員は、そうでない社員に比べて、自信を持ってAIを取り入れ生産性を高めようとするマインドが27%高いことがわかりました。コアバリューの一つである「カスタマーサクセス」を実現するには、まず従業員自身のサクセスが欠かせません。AIを活用して自分自身の業務を効率化して、生産性を高め、働きやすさを実感することが大切だと考えています。
また、SWNが中心となり女性社員へのAIリスキリングの機会も提供しています。当社が開発したeラーニングツール「Trailhead(トレイルヘッド)」を活用し、AIスキル習得で取り残される人が出ないよう、SWNが社内のエキスパートを招いて学習セッションや認定取得支援を行っています。メンバー同士が「躓いていませんか」「一緒に認定を取りましょう」と声をかけながら互いに学び合う文化を育んでいます。
さらに、人事領域でもAIを積極的に導入しています。例えば、就業規則や給与データなどへのアクセス、申請やサーベイのリマインドなど、AIを組み込んだSlack通知で自動化しています。
また、採用や評価のプロセスでは、AIがアンコンシャス・バイアスにつながる表現を検知する機能も活用しています。AIによってバイアスの影響を軽減することで、より公平な意思決定が可能になるだけでなく、自分では気づけない思考の偏りに気づくきっかけにもなっています。
――ジェンダー平等以外でのEqualityの施策や制度についてもご紹介ください。
蓮見さん:オフィス作りにもEqualityやAccessibilityの考え方を反映しています。例えば入館証をタッチする機械の高さは通常よりも低く設置し、さまざまな身長や車椅子利用者にも配慮しています。また、全フロアにジェンダーや障害に関係なく利用できるトイレを設けています。
制度設計のベースには「従業員のサクセス」があります。妊娠・出産だけでなく、介護や更年期など、人生のあらゆるステージでウェルビーイングを大切にしながら働き続けられることを重視しています。
グローバルの育児休業制度では、最大26週間、給与100%で育児休業を取得でき、男女にともに利用しやすい環境を整えています。介護業制度では、介護のために最長6週間の有休を取得でき、不妊治療や養子縁組に関しての費用補助もあります。さらに、更年期の悩みを共有できるよう専門の相談窓口や支援プログラムも用意しています。
働き方も柔軟に選ぶことができます。在宅勤務は育児中の社員に限らず業務やライフスタイルに合わせて生産性を最大化できるよう選択可能です。「なぜ今日は在宅なの?」と問われることもなく、一人ひとりがオーナーシップを持って働き方を決めています。
――今後、蓮見さんはどのような取組を進めていきたいか、展望をお聞かせください。
蓮見さん:Salesforceの創業者は「ビジネスは社会を変える最高のプラットフォームである」と話しています。当社は「人間中心にAIと協働する時代の未来を作る」ことを目指していますが、これは1社だけでは成し遂げられません。今後は、多くの企業と連携し、社会全体で変化を推進していきたいと考えています。
東京・丸の内のオフィスの最上階「’Ohana(オハナ/ハワイ語で家族の意)Floor」は、家族やお客様など外部の方に開放しており、2025年から半年に1度、ここで女性役員の交流イベント「Women's Executive Roundtable」を開催しています。ジェンダー格差の是正は業界の垣根を超えて取り組むテーマです。当社の経験を共有しながら他の企業と共に変化を生み出していきたいと思っています。
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