トラックやフォークリフトの運転、荷物の運搬など力仕事が多い物流業界。男性中心の業界ではありますが、近年では現場で働く女性も増えています。ニッコンホールディングスグループでも、女性社員が海外を含め現場で活躍できるよう、多様な取組を推進しています。人事制度や研修など、具体的な取組の内容について、同社総務部部長の神尾敦子さんとHR統括部管理課課長の松本春菜さんに話を伺いました。
■ 記事のポイント
・2026年3月期の目標として、国内の女性従業員比率22.2%、女性管理職比率7.7%を目指す・フォークリフトの資格取得を推進し、グループで技能を競い合う大会を実施・1人をロールモデルにするのではなく“パッチワーク”型でキャリアを描く
ニッコンホールディングス株式会社
総務部部長神尾敦子(かみお・あつこ)
大学を卒業後、日本梱包運輸倉庫株式会社に新卒で入社し、営業補佐として主にJR貨物輸送に従事。現場に出入りしながら経験を積み、軽自動車のコンテナ輸送の立上げなどに貢献。ニッコンホールディングス株式会社へ出向してからは総合職へ職変し、現在総務部にて、ニッコンブランドの磨き込みと社内外への発信により、価値をつなぎ信頼を広げていきたいと思っている。
HR統括部管理課課長松本春菜(まつもと・はるな)
グループ会社である日本梱包運輸倉庫株式会社へ新卒入社。現場研修を経て管理部門へ異動し、人事勤労・システム・健康開発センターなどを経験。現在はニッコンホールディングス株式会社に出向し、HR統括部で人事・採用を担当。3児の母として子育てと仕事の両立に励みながら「人が輝けば、組織も強くなる」を信条に、ニッコングループ全体の成長と社員の笑顔のために力を尽くしていきたいと考えている。
――物流業界は女性が少ない業界です。御社の現状と、経営における女性活躍推進を経営の中でどのように位置づけていますか。
神尾さん:ご想像の通り、物流業界は男性が多い業界です。その中でも、ニッコンホールディングスグループは運送、倉庫、梱包、テスト、海外の5つの事業を展開し、BtoB事業が中心のため、女性が活躍できる場面が比較的少ない現状もあります。女性従業員比率は、2025年3月期で国内19.2%、海外が36.1%です。そもそも、全職種全体では採用の段階から女性の応募者数が少ないので、比率を一気に上げるのは難しい現状です。
グループ全体(国内外)で従業員は約1万9,500人で、そのうちトラック等の運転に携わる乗務職が18%、運送、倉庫、梱包などの現場で働く現業職が50%となっており、現場率が高いことが特徴です。現場ではメーカー様のご要望に一つひとつお応えできるようなゼネラリストが求められます。人材の基盤は現場から培われると考えており、現場をとても大事にしているのも当社の特徴と言えると思います。
その現場に近年、女性がかなり増えてきています。また、現場を経験した女性が次のステップとして研修の講師をしたり、お客様への提案営業につなげたりするなど活躍の場が広がっています。2023年度からの中期経営計画では「人材基盤の確立」を掲げ、女性比率の目標を設定しています。
松本さん:人事の立場からお話すると、当社は海外でも9カ国、34社を展開していますので、海外勤務を希望して応募してくる女性も多くいます。その意欲を途絶えさせないように、海外で1年間業務に従事できるトレーニー制度を導入しており、これまでに10人の女性が米国・タイ・ベトナム・インドネシアのグループ会社で経験を積みました。女性の割合が少ない物流業界だからこそ、女性が活躍できるチャンスは多いと思います。私自身も、学生時代に女性がステップアップして役職に就くチャンスが多いのではないかと考えて当社を希望しました。
――女性活躍推進において設定しているKPIと目標設定の背景について教えてください。
松本さん:中期経営計画の中で、2026年3月期までの目標として、国内の女性従業員比率22.2%、女性役職者比率17.2%、女性管理職比率7.7%と各ステップで女性比率の目標を設定しています。2025年4月時点での国内女性管理職比率は4.1%と少なく、管理職を増やすためにはまず従業員と役職者を増やし、段階的に進めていく必要があると考えました。
神尾さん:女性管理職比率を上げていくには時間がかかります。自信がなかったり遠慮したりしてチャンスがあっても手を挙げない女性も多いので、経験や知識をきちんと積み重ねた上で自信を持ってチャレンジできるように時間をかけて育成していきたいと考えています。
――女性が活躍するための具体的な現場の取組について教えてください。
松本さん:フォークリフトなどの資格取得を推進しています。安全第一なので、資格取得後にグループ内の研修センターでしっかり研修を受けた上で現場に出ます。現場でフォークリフトが運転できる女性を「フォークガール」と称してグループ報で紹介することで、他の女性たちの意欲を高めることにもつながっています。女性は慎重な人が多く、事故率も低い傾向にあり、運転に向いていると思います。フォークリフトの運転資格を取得したら、次のステップとしてフォークリフト指導員に挑戦します。
国内外のグループ全員を対象に、トラックとフォークリフトの技能を競い合う大会「ANS(All Nikkon Safety)運転技能競技大会」を開催しており、女性が優勝することもあります。大会にはお客様や社員のご家族にも来ていただき、大変盛り上がります。
また、管理部門を対象に、カイゼン活動(注)を競い合う世界大会も実施しています。品質向上や効率アップの取組を経営陣の前で発表できる貴重な機会であり、普段はなかなか触れ合えないグループの社員たちが触れ合える場にもなっています。
神尾さん:トラックを運転する女性「ニッコントラックガール」(略して「ニコトラガール」と呼んでいます)が、できる限り負荷なく働けるように、オートマ車や小型車を採用し、洗車ロボットを導入するなど、負担軽減を図り、併せて現場のDX化も進めているところです。また、制服を会社によっては女性の意見を多く取り入れたものに変更し好評です。
(注)カイゼン活動:製造現場やオフィス業務など、あらゆる仕事のプロセスにおいて無駄を見つけ出し、生産性向上、品質改善、コスト削減、作業環境の安全化などを実現するもの。現場の全員が参加し、現状に満足せず知恵を出し合い、作業手順や環境を少しずつ継続的に「より良く」変えていく取組である。
――女性のキャリア形成の取組についてはいかがですか。
松本さん:グループには国内だけで51社あり、中には人数の少ない小規模な会社もあります。女性社員全員にロールモデルが見つかるとは限らないため、社内に目指すべき先輩が見当たらない、ロールモデル不在問題がどうしても起こります。そこで、グループ報で海外も含めてグループで活躍している女性を紹介して、自分が所属する会社だけでなくグループ全体に目を向けて目標を見つけてほしいと考えています。また、ロールモデルではなく“パッチワーク”モデルと称して好きな女性の好きなところだけをパッチワークのように目指していこうというメッセージを伝えています。
神尾さん:女性管理職の育成に関しては、管理職候補の女性を集めてセミナーや研修を実施しています。半年間の研修を終えた女性社員たちからは「自分ですべて背負う必要はなく、自分の強みと周りの人の強みを組み合わせていけばいいのだと気づき、気持ちが楽になった」といった感想が聞かれました。
――仕事と育児の両立支援の制度はありますか。
松本さん:私自身、3人の子供を持つ母親ですが、子供が急に熱を出した際に、半日休暇ではなく時間休で迎えに行くことができるため、時間休の制度は非常にありがたいと感じました。全国にサテライトオフィスがあるのも便利です。テレワークも可能ですが、自宅で落ち着いて仕事ができない人は全国のサテライトオフィスを利用できます。
また、社宅が充実しているので、社員の皆さんと一緒に子育て期間を過ごせたのはとても安心感がありました。社宅の1階には自社運営の託児所があります。自宅から近いのがとても便利ですし金銭面でも非常に助かりました。
――女性活躍推進の取組によって感じられている社内の変化や成果、今後の展望について教えてください。
神尾さん:女性に限らず、近年若手社員が定着しているのは、研修を充実させてきた成果だと感じています。また、事業戦略として海外比率を上げていく目標を掲げており、そのためには海外人材を指導、教育できる人材が必要になります。海外で活躍したいと考える女性にはチャンスが増えていくと思います。物流業界は多種多様な製品を取り扱い、社会で起きている様々な動きを肌で感じられる、やりがいと面白さのある仕事だと思っていますので、より多くの女性たちにも興味を持っていただき活躍していただきたいと思います。
松本さん:私も神尾部長も、物流業界とニッコンホールディングスが好きで、新卒からずっとこの会社で働き続けています。その根底にあるのは、現場で働いていた時に感じた人の温かさや、人の良さです。現場で働く人たちの環境をより良いものにしたい、もっと多くの人に物流業界を好きになってほしい、という思いで、従来は難しいと思われていたような課題にもチャレンジしています。少しずつではありますが、グループ全体に良い変化を起こしていきたいと思います。
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