建設業界は男性中心のカルチャーが根強く、女性の活躍推進やキャリア継続において課題が指摘されてきました。その中で三井住友建設株式会社は、早くからダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を経営戦略の柱と位置づけ、意識改革と制度設計を進めています。今回は、建築設備の技術職として設計・現場を経験した後、現在は全社のD&I推進、女性活躍施策、人材育成を担う藤原亜紀子さんに、同社が進める取組、そして次世代へのメッセージについて伺いました。
■ 記事のポイント
・女性採用目標を上回る達成。出産や育児などライフイベントへの支援も・現場の快適性向上へ、女性社員による「小町パトロール」・総合職への区分変更を支援し、50代のキャリアチェンジを実現
三井住友建設株式会社
人材開発本部 D&I推進部長藤原 亜紀子(ふじわら・あきこ)
入社時は技術職として建築設備設計に携わり、現場勤務を約10年経験。その後、出産を経て内勤の設計業務に戻る。3年前にD&I推進部へ異動。自身のキャリア経験を活かし、全社のD&I推進、エンゲージメント向上、教育、そして女性活躍推進に関わる施策の企画・展開を牽引している。
――貴社では、女性活躍推進を経営上の重要テーマと位置づけています。その背景を教えてください。
藤原さん:建設業界全体の課題として、人手不足があります。将来的には生産年齢人口が大きく減少するといわれる中で、建設需要が同じように減るわけではありません。場合によっては微増する可能性もあります。
そうした状況で、これまでと同じ人材の捉え方をしていては、担い手が足りなくなってしまう。そこで重要になるのが、女性をはじめとした多様な人材の力を活かすことです。
土木・建築系を志す女性は、理系分野の中では決して少なくありません。ただ、その中からゼネコンを選ぶ学生はまだ少ないのが現状です。DXを活用した省人化も進めていますが、人の手をすべて置き換えることはできません。限られた人材で事業を回していくためにも、これまで十分に活かし切れていなかった層に目を向ける必要があると考えています。
――具体的な行動計画やKPIについて教えてください。
藤原さん:現在の行動計画では、大きく3つの目標を掲げています。1つ目は、採用における女性総合職比率を、新卒・中途ともに25%以上とすること。2つ目は、女性管理職比率を3.5%以上にすること。3つ目は、男性育児休業の取得率を80%以上、平均取得日数を10日以上とすることです。
新卒採用については、直近では女性比率が25%を超えています。中途採用では、年度によっては女性が半数を超えるケースもありました。女性管理職比率についても、急激ではありませんが少しずつ着実に増えています。数値目標を掲げることで、社内に共通認識が生まれ、各部門が主体的に考えるきっかけにもなっています。
――建設現場は男性が多い環境だと思いますが、働く中で感じてきた課題はありますか。
藤原さん:女性が現場で快適に働ける環境づくりは欠かせません。女性用トイレの整備はもちろん、「小町パトロール」として、女性社員が現場を巡回し、設備や環境をチェックしています。
例えば、鏡の設置や備品の配置など、男性だけでは気づきにくい点を改善することができています。こうした小さな積み重ねが、現場で働く安心感につながっていると感じています。
また、ハラスメント対策にも力を入れています。研修だけでなく、ポスター掲示や日常的な声かけを通じて、「周囲が気づいたら声を上げる」職場作りを進めています。アンコンシャス・バイアスをゼロにすることは難しいですが、「誰にでもあるものだ」と自覚することが大切だと考えています。
――出産や育児など、ライフイベントへの支援はどのように行っていますか?
藤原さん:キャリア中断を前提としないために、育休取得前の希望者には人事部とD&I推進部、上長、本人で面談を行い、制度の説明や不安の解消を図っています。
面談の場では、産・育休中の処遇や産後の手続きについての説明、保育園情報の収集方法のアドバイス、休業前後の有給休暇の使い方など、実務的な話もしています。また、後から疑問が生じた場合は社内メールやチャットで個別に連絡をしてもらえればよいと伝えています。一度で全てを理解するのは難しく、考え方や状況も出産後に変わることは珍しくありません。だからこそ「いつでも聞ける」安心感を持ってお休みに入っていただくことを意識しています。
――一般職から総合職への転換についても、大きな変化があったそうですね。
藤原さん:実は2022年度に区分変更の受験資格を見直し、年齢制限や資格要件を緩和しました。その結果、多くの一般職社員が総合職へ区分変更をすることができました。50代後半で総合職に転換した社員もいます。区分変更試験で合格をしたことにより、「期待されている」と感じ、仕事への向き合い方が変わったという声も多く聞きます。社員区分そのものが人を変えたというより、期待が人を動かしたのだと感じています。
――女性管理職の育成について、具体的な取組を教えてください。
藤原さん:各部門で女性経営幹部候補者を選定し、計画的に育成するためのプランを作成いただいています。
また、女性の部長・副部長には、直属ではない本部長クラスのメンターをつけ、定期的な面談を行っています。多くの女性は「部長になること」を意識したキャリアを積んできていません。そのため、視座をどう上げればいいのか分からない中で、相談できる相手がいることは大きな支えになります。
併せて、女性を部下に持つ管理職側への研修も行っています。女性の部下にどのように接したらよいか戸惑いを感じる管理職もいますが、考え方の傾向の違いを知ることで、良好な関係を気づくヒントとなっているようです。
――こうした取組を通じて、社内の変化はどう感じていますか?
藤原さん:女性が働きやすい環境を整えることで、結果的に男性にとっても働きやすくなっていると感じます。制度や文化が整うことで、会社全体の雰囲気が少しずつ変わってきました。また、若い世代の女性社員は毎年増え続けているので、女性社員を部下に持つことには大分抵抗が少なくなってきていると感じます。
逆に、若い世代の人たちは子供のころから男女平等であることが当たり前に育ってきているので、入社したときに上長が女性であることへの抵抗感があまりないと感じます。この世代が育っていく過程で年配の世代の考えが悪い影響を及ぼさないように、女性の働き方に対する考えをブラッシュアップしていく必要を感じます。
――最後に、女性活躍推進に取組企業へのメッセージをお願いします。
藤原さん:女性活躍の目的は、女性を優遇し積極的に管理職登用を促すことではなく、男性と同等に扱われ、肩を並べて仕事ができる環境を整えることだと思います。仕事との両立で制約が出てしまうライフイベントを迎える場合でも、キャリアを中断せずに柔軟に働き続けられる仕組みや風土が醸成されていけば、結果的に女性だけではなく組織全体が働きやすい環境となっていきます。
また、若いうちから視座を上げる経験をさせることも重要です。リーダーとしての経験やマネジメントを早い段階で積むことで、その後のキャリアの幅が広がります。キャリアの途中で中断があっても、戻ってきて活躍する人はたくさんいます。諦めずに挑戦できる環境を、企業が作り続けることが大切だと考えています。
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