共同宣言賛同企業へのインタビュー

「文化企業だからこそ多様でいい」女性が安心して挑戦できる松竹の働き方改革

歌舞伎や映画、演劇など、日本の伝統と文化を支え続ける松竹。130年の歴史を持つ同社は、早くから「従業員の幸福」を経営の重要テーマとし、多様性を尊重した職場づくりに取り組んできました。

今回は、組織の根幹を担う人事部門の責任者として、多様な人材の活躍を推進する人事部門担当・執行役員の尾﨑郁子さんにお話を伺いました。

・女性管理職比率は27%(2025年2月時点)。将来的には半数を目指す

・仕事と育児を両立支援する育児支援プログラム「まつのこ たけのこ」で復職率100%

・エンタメ企業として、多様な社員が能力を発揮できる環境を追求

<プロフィール>

松竹株式会社
執行役員 人事部門担当
尾﨑 郁子(おさき・いくこ)


人事部門を担当し、グループ全体のサステナビリティ基本方針に基づいたダイバーシティ経営、女性活躍推進にも注力している。松竹グループは「日本文化の伝統継承発展」と「世界文化への貢献」をミッションに掲げ、その実現のため、従業員一人ひとりが個性や能力を存分に発揮できる職場風土の追求を目指している。

日本文化の伝統継承を支えるダイバーシティ経営

尾﨑さん:松竹グループには「日本文化の伝統を継承、発展させ、世界文化に貢献する。時代のニーズをとらえ、あらゆる世代に豊かで多様なコンテンツをお届けする」というミッションがあります。これに基づき策定されたサステナビリティ基本方針には、「松竹グループの持続的成長を通じて、さまざまな社会課題の解決に寄与すること」とともに、「従業員の幸福を追求すること」が掲げられています。

その「従業員の幸福」の追求という目標の下、中長期的な目標として「多様性を認め合い、従業員一人ひとりが個性や能力を存分に発揮することのできる職場風土の追求」を定めています。そこからブレイクダウンし、ダイバーシティ経営の一環として女性の活躍を積極的に推進し、女性が十分に力を発揮できる環境を整えることで、より一層企業価値を高めていくことを経営目標のひとつに掲げています。

尾﨑さん:松竹単体での女性管理職比率は27%(2025年2月時点)です。社員の約半数が女性であることから、将来的には女性管理職比率もそれに近づけたいと考えています。中期的には30%を目標に置いていますが、数字を上げること自体が目的なのではなく、自然に女性が活躍できる土台をつくることが重要だと考えています。

「活躍している社員」の職場環境とマインドを分析

尾﨑さん:男女限らず、多様な人材が働きやすい職場づくりを目指しており、数年前に「キャリアプラン設計制度」を導入しました。これは全社員が毎年キャリアプランシートを作成し、上司と1対1の面談を行うものです。どこを目指すのか、どんな経験が必要なのかを整理し、上司と共有することで、キャリア形成がより主体的になります。

また、従業員エンゲージメントを把握する施策として、昨年から人材診断システムを導入しています。これは、性別に関わらず、「活躍している社員がどういう職場環境、どういうマインドでいるのか」を会社が把握することを目的としています。それを分析し、ハイパフォーマーを生み出す職場環境のモデルを模索したいと考えています。また、製作や宣伝の現場など、ハードな職場環境にいる社員の心身の状況を把握したり、退職につながるケースを分析したり、課題にテコ入れをしたいと考えています。

尾﨑さん:松竹単体としては、企画プロデューサーや劇場運営担当者はいますが、監督や脚本家のような専門職の方を社員として抱えているわけではありません。キャリア育成は基本的には総合職として行っておりますが、専門性の高い道に進む社員のために、等級制度の中にマネジメントとは別の「V層」というポジションを設けています。

女性社員のキャリア形成支援策としては、主に産休・育休取得対象者向けのものが多いですが、最近では女性特有の健康課題に関するものも入れたりしています。優秀な人は男女問わず登用していくスタンスできたため、これまで女性だけのキャリア支援活動はあまりありませんでしたが、メンタリング制度やロールモデルの整備は、これから検討していきたいと思っているところです。

約20年前に導入した育児支援プログラム「まつのこ たけのこ」

尾﨑さん:仕事と育児の両立支援策として、約20年前に導入したのが育児支援プログラム「まつのこ たけのこ」です。これは当社の社名(松竹)にちなんだネーミングで、妊娠から育児休暇、復職後まで一気通貫で支援する施策です。産休前や復職前に上司や人事部との面談を実施し、復職後の働き方の希望や、勤務時間等を丁寧にヒアリングするようにしています。

尾﨑さん:育休からの復職率は、ほぼ100%を保っています。20年前は妊娠・産休を機に辞めてしまう方が多かったのですが、この制度を導入した頃から、社会全体で「働いていかないと」という雰囲気が出てきて、当社でも復職する社員が増えました。

原職復帰が基本ですが、不安がある場合は人事部が間に入り、社員と職場とで相談するようにしています。また、フレックスタイム制度や在宅勤務制度も導入しているため、企画や宣伝など現場の職場にいる社員も、これらの制度をうまく使って、元の職場で仕事を続けられています。

女性が生き生きして働ける職場にしていきたい

尾﨑さん:不妊治療への支援として、就業規則の一部を変更し、特別保存休暇の使用目的に不妊治療を追加しました。また、外部のクリニックと提携し、日常の検査を受けられるサービスも導入しました。非常にセンシティブな問題ですので、利用者のプライバシーを保護し、会社には誰が利用したかわからない仕組みにしています。

育児支援に続き、介護支援プログラム「まつさん たけさん」も導入していますが、現時点では介護休業を取得する社員は非常に少ない傾向にあります。ただ、介護の予備軍となる社員は多いため、内製化された介護セミナーを毎年開催し、社員に介護に関する知識を提供しています。

また、約20年前から子ども参観日を2年に一度開催しています。夏休みの時期に小学生のお子さんを対象とし、職場見学や松竹ならではの歌舞伎体験などを通じて、親の仕事への理解を深めてもらい、同僚がお互いの家庭を知ることで、助け合いの職場風土を作ることを目的としています。

尾﨑さん:制度は整ってきましたが、一方で会社としては、優秀な方を早期に育てたい、女性にもっと活躍してほしいという思いがあります。そのため、今後の重要な課題として、女性社員自身の意識改革が挙げられます。制度をめいっぱい使って仕事をほどほどに、という意識ではなく、限られた時間の中で最大限のパフォーマンスを発揮してもらい、キャリアを全うして会社に貢献してほしいという思いがあります。

優秀な女性社員が育児を理由にキャリアを諦めることがないように、早期に様々なプロジェクトにアサインし、重要なポジションに登用していくことも検討しています。また、社員のマインドセットを促す施策の企画立案も課題です。社内だけでなく、世の中で活躍している女性リーダーの姿を目の当たりにする機会を提供することで、社員のモチベーションや長期的なキャリアを見据える意識を促したいと考えています。

尾﨑さん:具体的な計画はこれから詰めていく段階ですが、女性管理職や女性役員をもう少し明確な形で増やしていけたらと考えています。また、女性社員が生き生きと楽しく働いてもらえるような職場にしたいです。特に育児などで外に目を向ける余裕がない社員に対し、社会にも目を向け、視野を広く持ってもらえるような取組を今後も検討していきます。