共同宣言賛同企業へのインタビュー

訪問看護事業所を支援し、患者や家族の療養生活を豊かにする

訪問看護事業所を顧客として、職員の採用や定着、キャリア形成をサポートする在宅医療支援機構。馬庭智子さんは新卒で親会社である帝人に入社し、ヘルスケア領域の営業を担当。3 度の出産を経て、帝人社内の在宅医療機器製品を扱う部署で初めて育休後に営業に復帰し、現在はグループ会社である在宅医療支援機構の法人営業部の部長を務めています。

社内の女性営業ロールモデルがいない中で、仕事と育児をどのように両立させているのか、在宅医療業界で女性が活躍するために必要なものは何なのか、話を伺いました。

・在宅医療機器を取り扱う部署にいた時は、女性営業が少なく、産休・育休後初めて女性営業として復帰した
・フルリモートで働きやすい環境を整備しつつコミュニケーションを大事にする
・多様性の時代、ロールモデルがいなくても自分なりのキャリアを形成できる

<プロフィール>

在宅医療支援機構株式会社 事業所支援営業部 部長
馬庭 智子(まにわ・ともこ)

2009 年に大学を卒業後、帝人株式会社に新卒で入社。
在宅医療機器の営業職(現:帝人ヘルスケア株式会社)としてキャリアをスタート。3 回の産休・育休を取得し、1 回目の育休後の復帰で、人事総務部にて中途採用業務に従事。2020 年、3 回目の育休を経て、営業職として復帰。2023 年、在宅医療支援機構株式会社との業務提携を通じて、訪問看護領域の新規サービス立ち上げに貢献し、2025 年4 月から現職。

育休後に営業職として復帰。ロールモデルがいなくて戸惑った

馬庭さん:在宅医療支援機構の事業所支援営業部の部長職に就いています。在宅医療支援機構は、お客様である訪問看護事業所を対象に、訪問看護師をはじめとする医療従事者の採用や定着、キャリア形成を支援する人材ソリューションサービスを提供しています。22 人の社員がいて、そのうち9 人が女性です。

事業所支援営業部には3 つのチームがあり、1 つ目は事業所との最初の接点としてマーケティングや営業活動を通じて、当社のサービスに関心を持っていただくインサイドセールスのチームです。2 つ目は、接点を持った後に、事業所のニーズを深くヒアリングして、サービスをご提案するフィールドセールスのチームです。3 つ目は、カスタマーサクセスのチームがあり、入職して終わりではなく、採用した職員の定着までをしっかりサポートしていきます。

馬庭さん:自社でサービスを持っている会社の営業に携わりたいと考えて、新卒で帝人に入社しました。入社前は樹脂や繊維などマテリアル事業のイメージが強かったのですが、ヘルスケア事業にも強みがあり、最初に担当したのは医療機器の営業でした。

その後、いくつか営業の部署を経て、3回の産休・育休を取得する間に人事総務部で中途採用業務にも携わりました。

当時は帝人社内の在宅医療機器製品を扱う部署で育休後に営業に復帰する女性はいない中で、3人目の育休後にはじめて女性として営業の部署に復帰し、リーダー職に就くことになりました。その後、在宅医療支援機構との業務提携を通じて、訪問看護領域の新規サービス立ち上げに携わり、2025年4月から現在の仕事に就いています。

馬庭さん:ロールモデルがいなかったので、営業への復帰が決まったときは正直戸惑いました。訪問看護事業所と同様に、帝人の在宅医療事業は24時間365日サービスを提供しているため、夜間や休日は当番制です。こうした働き方に高いハードルを感じられる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、在宅医療の現場で患者さん宅の急な機器の変化に対応する非常に重要な役割を担っています。だからこそ、大きなやりがいも得られる仕事です。

私が女性として営業に復帰することで、この業界で活躍し続けたいと考える後輩たちに道筋を示すことができたらと考えました。そして、それが私のモチベーションになりました。

「心理的安全性」を確保し、意見を言いやすい環境をつくる

馬庭さん:2020年、ちょうどコロナ禍が始まったタイミングでの復帰だったので、ヘルスケア事業は忙しくなっていました。仕事でしっかり期待に応えながらも、理想の母親像も追求したい。その葛藤は大きかったですね。夕方に自分の担当しているクライアントからの緊急案件が発生したけれど、自分は子どものお迎えに行かなければいけない、といったこともありました。

近くに義理の両親が住んでいるものの、3人の子供の面倒を見られるものではありません。ファミリーサポートのサービスも3人は難しいと断られてしまいます。夫も積極的に子育てに関与してくれていますが、どうしてもタイミング的に無理な場合は、社内のメンバーに頼らざるを得ませんでした。当時の私は、「自分で全部やらなければ」という思いが強すぎて、メンバーに助けを求めるたびに勝手に肩身の狭い思いをしていました。

馬庭さん:実は在宅医療支援機構株式会社の制度は、大企業のように最初からすべてが整っているわけではありません。でも、だからこそ、社員の意見や状況に合わせて、柔軟に制度を作り上げていける強みがあります。例えば、正社員にはフルフレックス制度が適用されていましたが、有期契約社員には適用されていませんでした。しかし、そうした社員から要望が上がった際、私たちは前例の有無にかかわらず、会社全体で検討し、メリットデメリットを判断することで、すぐに制度を取り入れることができました。

このように、社員たちの声を聞きながら、どうすれば一番いい形で成果を出せる環境を作れるのか、みんなで試行錯誤しているところです。

働き方の部分では、もともとコロナ禍の前からフルリモート、フルフレックスでの勤務が可能で、かなり先進的だったと思います。社内ではリモートでのコミュニケーションが当たり前になっていて、チャットでやりとりをする文化が浸透しています。チャットでいつでも気軽に相談できるため、対面でなくてもすぐにコミュニケーションを取れる文化が根付いています。その結果、物事がスピーディーに進み、意思決定の速さにも繋がっていると思います。

馬庭さん:確かに、M&A以降、社員の人数も増えている中で、新しく入って来たメンバーにもしっかり理念を浸透させていく難しさは感じています。新入社員はリモートだと孤独を感じやすいため、時間を決めて、みんなでオンライン状態のまま仕事をして、わからないことは何でも質問できる時間を設けるといった試みもしています。

我々は営業として、しっかり成果を上げていかなくてはなりません。その成果は売り上げの数字だけではなく契約数や他の自社サービスにつなげていくなど、様々な指標があります。その1つ1つの行動を可視化し、評価ポイントに満たないメンバーに対してはコミュニケーション量を増やすような対応をしています。

馬庭さん:そうですね。大事なのは、心理的安全性、つまりコミュニケーションのしやすさだと思っています。私の意見に全員が賛成するとしたら、それはコミュニケーションではなくただ指示に従っているだけです。メンバーが安心して意見を言える環境をつくるためにも、1on1ミーティングの時間をしっかり確保しています。

コミュニケーションが単なるタスク管理で終わらないように、キャリア的な視点や業務の改善点などを話す場を設けることで、提案のしやすさや、意見を発言しやすくする組織づくりを意識しています。今はメンバーの状況や価値観も多様なので、そうしたチームをマネジメントするにはリーダーにも柔軟性が求められると感じています。

ロールモデルを探すとしんどくなる。自分なりのキャリアを描こう

馬庭さん:私たちのお客様である訪問看護事業所で働く看護師の多くは女性です。その点において、既に女性が活躍する業界であるといえます。しかし、業界全体でみても慢性的な人手不足という問題を抱えられているため、それらを解決し女性活躍をさらに推進するために、私たちも支援させていただきたいと考えています。

女性活躍の推進のためには、キャリア形成の見えやすさも大切だと感じています。一般的に、病院では専門性を高めていくための成長の道筋が確立されていると認識されているようですが、訪問看護業界では、まだそうした道筋が十分に整備されていないと感じている方が多いようです。訪問看護には、30代から40代の子育て世代の女性が入職に踏み切るケースを多くお見受けします。病棟のような夜勤がなく日勤が主体の働き方ができるため、ライフステージの変化に対応しやすいことも理由にあるようです。

しかし、働き方を変えたその先に「この仕事でさらに成長していくための道筋をどのように見つけいくのか」という点で、私たちがご支援できることがあると感じています。そのため、私たちはそうしたキャリアの悩みにお応えできるよう、職員の定着やキャリア育成のご要望をいただいた際に研修提供などを通じて支援できる体制を整えています。

馬庭さん:私は在宅医療に関わる仕事がすごく好きで、やりがいを感じています。医師や看護師など医療従事者の方々と連携しながら、患者さんのご自宅に訪問した際に、「ありがとう」と言ってもらえるのですが、自分の提供したサービスによって相手からダイレクトに感謝を伝えてもらえることが仕事のモチベーションになっています。

在宅医療は、重要な役割を担っている訪問看護師の方々がいなければ成り立ちません。そのため、間接的ではありますが、訪問看護事業所に医療従事者をつなげる事業を通じて、患者さんの療養生活をより豊かにしていきたい。それが、私が目指すゴールです。

馬庭さん:先ほど申し上げた通り、私自身はロールモデルがいない中で営業に復帰し、リーダーになりました。ロールモデルを探せば探すほど見つからず、しんどい思いをした経験があります。そのため「ロールモデルを探すのはやめよう!」と決めました。

持っているリソースや家庭環境、子どもの健康状態など、状況がそれぞれ異なる中でまったく同じ人を見つけるのは困難です。ただ、ロールモデルがいなくても、自分なりの働き方やキャリアを作っていくことはできます。これは自分の経験から自信を持って言えることなので、「ロールモデルがいなくても大丈夫」と伝えたいです。