株式会社ゆうちょ銀行● コーポレートスタッフ部門 ダイバーシティ推進部 部長斎藤美香子(さいとう・みかこ)
2025年に郵便貯金事業150周年を迎えたゆうちょ銀行。多様化する顧客ニーズに対応し、社員一人ひとりの多様な価値観を尊重して組織の力につなげようとDE&Iを推進しています。その中で女性活躍推進においては、全国の様々な拠点で働く女性の管理者と社員の対話を促進する施策を、毎年進化させながら展開しています。「単発で終わらせず次につなげていく」ことを意識するとともに、社員一人ひとりが活きる仕組みづくりに取り組んでいます。
⸺まず人事戦略やダイバーシティ、女性活躍推進に対する考え方をお聞かせください。
当行は「お客さまと社員の幸せを目指し、社会と地域の発展に貢献します」というパーパスを掲げ、経営戦略と人事戦略を連動させています。その人事戦略の基本的な考え方として、「成長を促す」「能力を引き出す」「多様性を活かす」の3つの柱を立て、「多様性を活かす」の最重要テーマにダイバーシティマネジメントを位置付けています。組織としては、2016年にダイバーシティ推進部を設置して取り組んできました。毎年設けている「ダイバーシティ強化月間」では社長からのメッセージを配信するほか、全国規模のダイバーシティ・フォーラムを通じて意識醸成に努めています。 女性活躍推進においては、2021年度からの中期計画で「2026年4月に全社女性管理者数比率20%(2025年4月時点で19.8%)」などのKPIを設定しています。ただ、数字だけにとらわれず、「一人ひとりの多様な価値観を尊重し、組織の力とする文化を構築」するべくダイバーシティマネジメントの仕組みづくりに取り組んでいます。
⸺女性活躍推進で一番力を入れている施策は何ですか。
様々な施策を展開しているので1つには絞りにくいのですが、 テーマとしては「女性社員本人へのキャリア支援」に力を入れています。併せて女性活躍推進のために組成した本社の「女性リーダーネットワーク」では、「経営層・上司へのアプローチ」「ワークとライフの両立支援制度」を加えた3テーマについて、各チームで議論を進めています。 女性社員だけでなく、経営メンバーや管理者であるリーダー層の関わり、環境面も重要だと考えています。リーダー層としては研修・ワークショップで女性活躍推進について考える機会を持ち、「その人のキャリアをどう捉えるか」「どう寄り添うか」を大切にして、本人の意思を丁寧に確認した上で進めていくように努めています。その意味では、3つのテーマすべてがつながっていると考えています。 当行は制度や施策が比較的整備されていると思いますが、それらを「必要な人が必要な時に使えること」をとても意識しています。また、ネットワーク活動も女性が元気になる源と考え、全国各地の女性社員のネットワークづくりに注力しています。ありがたいことに、各施策に参加する女性社員はこれらの活動を前向きに捉えてくれています。取り組みを継続していくことで、新たなつながりや効果が生まれるのではないかと期待しています。
⸺具体的にはどんな施策がありますか。
1つは、本社の女性役員・部長などをメンバーとする「女性リーダーネットワーク」です。女性活躍をより推進するために、2024年2月に発足しました。和気あいあいとした雰囲気ながら、「私たちゆうちょ銀行の女性社員がさらに活躍するために何が必要なのか」を真剣に、本音で議論を重ねています。ここから生まれた多くの施策はもちろん、メンバー同士の部署を超えたつながりが生まれたのも大きな収穫です。 活動は、メンバー自身がこれまで感じてきた「女性活躍を推進するための課題」に関する議論から始まりました。
⸺「女性リーダーネットワーク」は継続的に実施しているのですか。
はい。毎月集まり、テーマを定めて議論しています。そして、女性管理者層が日ごろ感じている課題抽出を目的としたラウンドテーブルや、女性役職者向けのキャリアセッションなどを実施してきました。ラウンドテーブルでは、女性リーダーネットワークのメンバーがホスト役を務めて話を聴き、そこから吸い上げた課題や意見をまとめて経営メンバーに報告しました。本音を聴かせてくれた女性管理者のためにも、吸い上げた課題や意見はできる限り施策につなげています。キャリアセッションでは、役職者層の女性社員が普段接点のない女性役員・部長などと交流することで視野が広がり、次世代の管理者としての考え方などの気づきを得る機会となりました。 当初17人だったメンバーは、今では28人にまで増えました。こうした施策は単年度で終わらないことが大切。「今年はこの層にこう響いた。でも、この課題には何が響くだろうか」と話し合い、次につなげています。
⸺他にはどんな施策がありますか。
「女性リーダーネットワーク」は主に本社向けですが、フロントラインから全社に展開したのが「ナナメの1on1」です。もともと同じ職場の上司と部下が対話する「1on1ミーティング」がありましたが、これをアレンジして、女性管理者と女性社員が組織を超えて対話する「ナナメの1on1」を新しくつくりました。 最初は試行として小規模でスタートしたのですが、ほんの2カ月ぐらいでかなりの反響が出てきたのです。そこで、すぐに本格実施に乗り出したところ、 「参加したい」と手を挙げる社員が予想を超え、1年目で約100組が参加してくれました。 具体的には「管理者のサポーター」と「非管理者のプレーヤー」がペアとなって、ライトなメンタリングのような形で話してもらいます。1回1時間程度、それを4カ月の期間中に計3回実施します。例えば、北海道と九州というように地域も業務内容も違う2人が初めて会って、プレーヤーがサポーターからの問いかけを受けながら対話を進めていきます。話し手であるプレーヤーは、自分のことを言語化することで様々な気づきが得られるほか、「今まで会ったことがないロールモデルに出会えた」「自分の弱みだと思って話したら『むしろそれは強みだよ』と言われて元気が出た」など大いに刺激を受けるようです。 一方、聴き手であるサポーターからの「私たちの会社にこんな素敵な社員がいるんだ」といった声も耳にします。サポーターとして何度も参加してくれる社員がいるのは、この施策がいい形で発展しているように感じて本当に嬉しいですね。
⸺これを発案されたきっかけをもう少し詳しく教えてください。
私自身がキャリアコンサルタント資格を保有していたことから、女性のキャリア相談に近い仕組みを社内に取り入れられないかと思ったのがきっかけです。当行には北海道から沖縄まで、全国13のエリアがあるのですが、地域によっては、先輩女性やロールモデルとなる方が少ない場合があります。また、同じエリアや職場の中ではお互い先入観があり、自分の考えや意見を声に出すことに躊躇してしまうこともあります。「ナナメの1on1」では、エリアや部署、業務が違う初対面の先輩女性がしっかり聴いてくれるからこそ話したいことを話せます。「先入観を持たれずに対話することがこんなに心地いいのか」と多くのプレーヤーが言ってくれています。 こうした体験をしたプレーヤーが後輩や周りの社員に勧めてくれることで、口コミも広がっています。また、プレーヤーとして参加していた社員が職場の管理者になり、「今度はサポーターとして来ました」と参加してくれるケースも出てくるなど、継続性やつながりを実感しています。
⸺同じような施策を他の会社が導入しようとした場合、どのような考え方が重要になってくるのでしょうか。
「ナナメの1on1」の参加者は1年目には約100組でしたが、3年目の今年は延べ600組を超えました。組織を超え、サポーターである女性管理者同士の連携の場にもなってきましたし、管理者が自部署の部下を導くなどよい影響が波及しています。社外に頼らない内製化施策だと、施策を企画するメンバーたちの意見を聴きながら自由に変えていける柔軟性もあります。まずは小さく始めて、現状を見ながら拡げていくのがよいのではないでしょうか。 また、社員の個性をしっかりと受容することが大切だと思います。自分の考えを言葉にして聴いてもらうことで、違った目線から見てもらえ、自分の強みに気づくことにつながると思います。 サポーターと対話したことで、希望部署への異動を募集するキャリアチャレンジ制度の面接に応募する女性社員が出てくるなどの効果も見られ、担当しているメンバーもやりがいを感じています。 話を聴くサポーターの関わりが、社員の成長支援となります。相手の話を最後までちゃんと聴くというのは、実はかなり意識しないとできません。途中で話を遮ることなく、「あなたの話を最後まで聴きますよ」とサポーターが真剣に向き合ってくれることは、プレーヤーたちを勇気づけます。「聴くこと」が言語化を促し、社員の可能性の拡大につながると感じます。
⸺今後取り組みたいことがあれば教えてください。
女性活躍推進にはまだまだ課題が多いと感じます。各社員には育児との両立などいろいろな事情も出てきます。育児休業については、若い世代にとっては男女ともに取得することが当たり前という認識ですが、社会環境が現在とは異なっていた世代とは認識の違いやジェネレーションギャップもあります。組織や役職を「越境」した対話やコミュニティでのつながりも新たな気づきとなり、社員の力ひいては組織の力になると感じます。 一方で、「これをやったからOK」というものはなく、常に考え、進化させながら継続していくことが大切だと思います。
⸺女性活躍推進に取り組んでいる企業にメッセージがありましたらお聞かせください。
それぞれの会社に合ったネットワークを活用して、一人ひとりの社員の個性が発揮できる仕組みづくりをすることで、よい方向に動いていくのではないかと思います。 フラットな対話の場はとても大切です。意見を出し合うことでより効果的な施策を企画できます。また、キャリアの節目だけは立ち止まって考えられるよう、悩んでいる社員がいたら話を聴いてあげてほしい。それが、その人のキャリアや将来が変わるぐらいの転機になるかもしれません。一歩踏み出すことをためらっている人たちの背中をそっと押してあげられるような機会や場を、これからもつくっていきたいと思います。
◆次回予告◆次回は当連載コラムの最終回となります。これまで指摘してきた日本の女性活躍の進捗状況や女性活躍推進に積極的に取り組む企業の事例を踏まえ、働く女性たちが自身のキャリアの可能性を信じ、自由にキャリアを選択するために必要となる取り組みや支援策などについて提言します。