東京都

第6回
男性中心の建設業で早くから技術系女性を採用
要望や声を吸い上げ、孤立させない環境づくり

株式会社大林組
● グローバル経営戦略室 ダイバーシティ&インクルージョン推進部 担当部長
  中沢 英子(なかざわ・えいこ/写真左)
● 土木本部 本部長室 担当部長
  鯉田 昭雄(こいだ・あきお/写真右)

男性中心の文化が根強い建設業界において、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進はもはや待ったなしの経営課題となっています。深刻な人手不足とグローバル化の波を受け、大林組は特に女性活躍をD&Iの最初のステップと位置づけています。技術系を含む女性社員の積極採用や管理職への登用、建設現場の環境整備など多岐にわたる施策を、スピード感をもって企画・実行しています。その上で、長時間労働の是正と生産性向上を図りながら、男女問わずすべての人が能力を発揮できる組織文化の醸成を進めています。その取り組みと挑戦について聞きました(文中一部敬称略)。

■ 1980年代から女性技術職を登用して業界をリード

⸺男性がマジョリティを占める建設業界にあって、大林組はD&I、女性活躍推進に積極的に取り組んでいます。これまでの経緯や方針・戦略などを教えてください。

中沢英子さん 当社は「地球に優しいリーディングカンパニー」という企業理念を実現するために、「ステークホルダーを含めてすべての人に信頼される企業であり続けよう」と行動指針を定めています。そして2021年4月、ダイバーシティ&インクルージョン推進部が新設されました。この「すべての人」の中には女性も含まれています。当社は1980年代から女性技術職の採用を積極的に行ってきました。そして、男性中心の会社に女性が入社することで起こる様々な問題や事象に対して組合や人事部門が真摯に向き合い、女性が生き生きと働けるような風土を醸成してきました。それが当社の強みの1つであり、建設業界の中で他社より進んでいるベースになっています。

⸺なぜ早い時期から取り組まれたのでしょうか。

中沢さん 当時、「建設現場で図面を描く」「図面から数量を拾う」などの作業は人海戦術でした。そうした作業に女性の専門力を活用しようと考えたことは先見の明があったと思います。
 早くから技術系女性の採用をしたおかげで、建設現場・土木・建築など幅広い部門で、所長・部長・課長、その一歩手前の次世代の管理職クラスなどのロールモデルを目にする機会は、他のゼネコンより多いと思います。ただ、男性と比べると絶対数が少ないので、バリエーションがそれほどないのが課題です。男性並みにロールモデルが揃うようになるには、建設業界の仕事の魅力を高め、土木や建築を学ぼうという女性の学生が増えることが前提ですが、技術系女性をさらに増やし、女性社員比率を30%程度まで引き上げていく必要があると思います。多様な人材を徹底して包摂していくことが、ジェンダー関係なく活躍できる会社や社会につながっていくと考えています。

■ パートナー妊娠のタイミングで開催する「企業版両親学級」

⸺2025年 4月から4年間に及ぶ「女性活躍推進法に基づく第三次行動計画」を進行中です。概要や狙い、重要な取り組みなどを教えてください。

中沢さん 2028年度までに女性管理職比率を9%程度(2024年実績6.0%)に、技術系女性社員比率を14%程度(2024年実績11.4%)に引き上げるなど、様々なKPIを掲げていますが、数字だけを追いかけると、逆に男性側のモチベーションが下がってしまう懸念もあります。そこで、男女関係なく誰もが総活躍してチーム力・組織力を上げようと、これまで継続してきた「能力に応じた人物本位の昇給昇進」のさらなる強化にも取り組んでいます。
 多くの会社と同様、アンコンシャス・バイアスも大きな課題です。男性の中には「女性にこんな仕事ができるのか」という認識がある一方、女性自身も「私にこんなことできるかな」と自己評価を控えめにしがちです。そうならないように「アンコンシャス・バイアス研修」を実施するほか、管理職に向けても「アンコンシャス・バイアスのないダイバーシティや多様性のあるマネジメントとは何なのか」など、外部の専門講師のレクチャーで知識や理解を深めてもらいます。

⸺計画の中で、「男性従業員の育休休職・育児目的休暇年間取得率」の数値目標を“100%以上”にしています。これはどういう意味でしょうか。

中沢さん 100%以上としているのは、お子さんが生まれても翌年度に取得するなど年度ズレが生じるためです。ただ、男性が休職・休暇を取っても、女性の家事・育児の負担が下がるわけではありません。大切なのは、休職・休暇期間中にパートナーそれぞれが家事・育児の対応ができる体制を整えておくことで、人事部と協力しながらサポートに取り組んでいます。
 例えば、パートナーが妊娠したタイミングで「企業版両親学級」を開催しています。その中で「女性は出産後、急にホルモンバランスが変わって精神的に不安定になることがある」「だから、産後にパートナーの支援が必要になる」などについて、パートナーと一緒に専門講師から学んでもらいます。「パートナーがそばでサポートすることがお互いの信頼関係の構築になる。共育は子を授かった者の特別な切符」ということを理解してもらう場になっています。

■ 女性特有の悩みに寄り添い、スピード感をもって環境を整える

全国に散らばる建設現場に対しては、どんな施策があるのでしょうか。

中沢さん 工事事務所では男性社員がほとんどです。女性技術者がいても1人か2人で、「自分はこういうキャリアを積みたい」「こういうことに悩んでいるけど、誰かに相談できないか」という悩みを抱えています。そこで、「自分は何を大切にしてこの会社に入り、今は何を目指しているのか」といったことを振り返る機会にしてもらおうと、座学とグループワークをセットにした「セルフリーダーシップ研修」(右写真)を2年に一度実施しています。女性同士のネットワーク作りという目的もありますが、普段は男性ばかりの中で言えないことを共有することでお互いにエンパワーメントし合える場にもなっています。

建設業界特有の労働環境を改善するために、どんな方策に取り組んでいますか。

中沢さん 長時間労働を改善しない限り、「共育」もままなりません。強制的に工事事務所を閉める「4週8閉所」の実施、週1日のノー残業デー、長時間勤務者のモニタリングなどの施策によって、時間外労働や休日出勤を減らしていきます。
 また、どの工事事務所でも毎朝8時から朝礼があります。しかし、朝礼に行けないために育休からの復職をためらってしまう、そもそも育児中は現場では働きにくいなどの声がありました。そこで時差出勤を認め、出社後に朝礼の動画を見て注意事項などを確認してもらうようにしました。
 男性の多い職場では「生理休暇」もなかなか申請しにくいものです。ライフステージごとの健康課題に対応するため、「carefull」というプラットフォームを導入しました。さらに、生理用品を備品としてトイレに置くようにしたところ、「業務に集中できる」「不安がなくなった」と評価が高かったので、すべての工事事務所とオフィスに導入しました。

女性社員の声の収集や仕組みづくりで工夫されていることはありますか。

中沢さん 乳がん検診を受けるにしても、勤務時間中は現場を抜けにくいものです。そうした状況を少しでも解消するため、イントラネットで毎月19日のピンクの日に「乳がん検診・子宮がん検診に行ってください」とテロップを表示して呼びかけています。10月のピンクリボン月間にはオンラインで社内セミナーも実施しました(右画像はイントラネットでの告知)。乳がん検診を呼びかける際には、実際に罹患した女性社員が実名で登場し、受診から治療、復職に至るまでの経験談を発信してくれました。「一番忙しくてつい自分のことを後回しにしがちな30代、40代の女性にシェアしたい」という思いから自ら手を挙げてくれたんです。
 社員の声を広く吸い上げるために、イントラネットのD&Iページに「提案・意見・感想」のボタンを設けています。生理用品の備品化もここからの問い合わせがきっかけだったのですが、埋もれた声や率直な意見・提案を吸い上げる“窓口”として機能しています。

女性の働き方改革を進めるにあたって、ライフイベントの考慮も必要ですね。

中沢さん 女性の育休期間は男性より圧倒的に長いので、ちゃんと仕事に戻れるのか不安になります。そこで、育休中の人に集まってもらって「TalkCafe」を週に一度開催しています。育休中の男性の参加もあります。育児で気持ちが疲れている時、少しでも大人と話して愚痴を言うことで悶々としていた気持ちが解消されたり、復職に際しての不安を他の参加者と共有することで「自分は会社とつながっている」と思えたりします。時には人事部につないで担当者と個別に話してもらうこともあります。
 ダイバーシティ&インクルージョンに関する意識調査を今年度初めて実施しましたが、「個の違いを尊重する意識」や「信頼関係を構築する意識」と比べると、「成長する意識」と「組織変容を尊重する意識」が低い傾向にあることが分かりました。これらの意識はインクルージョンの中で生まれてくるものなので、ダイバーシティ&インクルージョン推進による人材マネジメントが従業員と企業の強固な信頼関係構築の基礎となるような組織風土に、もっと深く切り込んでいく必要があると感じています。業界や地域、そして日本社会や世界に向けて良い流れや良い風が広がるように、どんな小さな取り組みでも効果が見られたら、今後も社外に対して公開・共有していくつもりです。


■ 土木部門の女性技術者に寄り添うために
 ライフイベントをどう乗り越えてもらうか

建設業の人材不足が続く中で、女性技術者が出産・育児で職場を抜けると大変ですね。

鯉田昭雄さん 現在、大林組全体で2125人の土木技術者がいます。女性技術者は約8.1%にあたる172人で、そのうち68人が全国の現場で働いてくれています。ほとんどが入社5、6年目までの若手なので、これからライフイベントを迎えていく世代です。一方、既にライフイベントを乗り越えた人は、所長、部長、副支店長といった重要な役職に就いている方もいらっしゃいます。
 国土強靭化に向けた公共投資や企業の設備投資が盛んなので建設業全体は非常に忙しく、猫の手も借りたい状況が続いています。そのため、育休・産休で抜けた部分を埋めるのは難しいというのが正直なところです。もともと数人しかいない現場で、抜けるのが役職者だと余計に難しいですね。
 一方で、出産後、現場に戻ってきてくれる、あるいは「もう子育てを卒業したので、全国どこにでも行きますよ」と言ってくれる女性技術者もいます。本人たちの負担にならないような制度や環境は何なのか、今まさに悩んでいるところです。

人手不足はどの企業にも共通の課題で、中でも建設業は生産性を上げることが容易ではありません。

鯉田さん 生産性を上げるためにいろいろ手は尽くしていますが、構造物は現地単品生産なので同じものをつくれないんです。しかも、その土地に合ったものを人が目で見てつくるので、誰かが現場で判断する必要があります。特に地方では現場が山奥もあれば海の上もあります。そこに行くかどうかは、技術者本人の意思や我慢に頼っている部分はあるのかなと思っています。
 D&Iや女性活躍に関して情報発信や制度づくりが進んでいることで、「こういう考えもあるんだ」「そういう休み方・働き方もあるのか」ということが徐々に理解されてきました。各人が自分なりの考えで柔軟に利用するケースが増えていけばいいと思っています。そのためにも、本社が一方的なルールをつくるのではなく、様々な意見や声が上がってくるような組織にしていく必要があります。地方の比較的小規模の会社でも、当社よりも進んでいるところもあります。見習うところは見習って、良い取り組みについては当社でも取り入れていきたいと思っています。

◆次回予告◆
次回(第7回)は、女性活躍推進に取り組む企業としてファイザーの事例をご紹介します。男性の立場から女性活躍をサポートする取り組みなどについて、社内ボランティアで活動に参加する2 人の社員にお話をうかがいます。