ファイザー株式会社● ジャパン メディカルコミュニケーション& コンテンツリード 松本亜美(まつもと・つぐみ/写真左)● プライマリー・ケア部門 抗ウイルス/ 病院戦略推進部 部長 縄村健児(なわむら・けんじ/写真右)
ファイザー株式会社は、グローバル企業としてDEI を経営戦略の1 つに据えています。それを推進するのが「Colleague Resource Group(以下CRG)」で、5 つのテーマごとにつくられたチームはすべて社員ボランティアが主導しているのが特徴です。テーマの1 つであるジェンダーエクイティに取り組むのが「Japan Pfizer Women’ s Resource Group(以下JPWR)」です。また、その中で「Men as Allies」(メン・アズ・アライズ、以下MAA)は、男性の立場から職場での女性のさらなる活躍や成長を促すことでエクイティを推進し、よりインクルーシブな文化を創り出すことを目的に独創的な活動をしています。JPWRの松本亜美さん、MAA の縄村健児さんにお話をうかがいました(文中一部敬称略)。
⸺まずはDEI の方針や体制などを教えてください。
松本亜美さん ファイザー株式会社ではDEIを推進するために5つのテーマ別にCRGがあり、いずれも有志社員が活動に参加しています。そのうちの1つが、ジェンダーエクイティに取り組むJPWRです。私は現在、メディカル部門に所属していますが、男性社員の多い営業部門にかつて在籍していた経験から、女性の活躍推進に興味を持つようになりました。「この会社をもっと良くしたい」という思いもあって、約2年前に自ら手を挙げてJPWRに参加しました。 当時は「sub-lead(サブリード)」でしたが、今は「co-lead(コリード)」のポジションで活動しており、JPWR共同代表である執行役員法務部門長の嶋村尚子と連携しながら、ジェンダーにとらわれず「誰もが働きやすい職場」の実現を目指して活動をしています。どうしても本社に所属しているメンバーが多いので、全国に散らばるメンバーをどう巻き込んでいくかが今の課題の1つです。
縄村健児さん 私はプライマリー・ケア部門でマーケティングの責任者をしています。JPWRでは、男性の立場から女性の活躍を支援して公平な職場を実現するMAAの活動に参加しています。MAAはもともとグローバルでの大きな取り組みで、日本には2023年に導入しました。私自身は活動に参加してまだ1年弱です。 当社の拠点は「東京本社」「名古屋工場」で、そこに所属する社員と全国にいる営業社員が主な社員構成なのですが、特に男性の多い営業部門からの参画がまだまだ少ないと感じています。その啓発活動として、年に一度「国際男性デー」というイベントを開催しており、今年は11月12日に東京本社内で実施しました。当社社長の五十嵐(啓朗)を交えたパネルトークをはじめ、ショートドラマの披露、インタビューなどのプログラムを通じて、「男性の立場から考える女性活躍とは何か」「男性、女性に関わらず、誰もが活躍できるにはどうすればいいか」「誰もが抱える可能性のあるアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)」などを考えるとともに、MAAの活動を知ってもらう機会になりました。
⸺他にもどのような活動をしていますか。
縄村さん MAAのメンバーを中心に「生理痛体験キャラバン」を2024年に実施し、大きな反響がありました。これも啓発活動の一環で、そもそも生理痛を経験できない男性に、女性のつらさを知ってもらうために全国3カ所で実施しました。特に男性が多い営業部門の方にも参加していただきましたが、「こんなにつらいのか」「この痛みがあると仕事すること自体が難しい」といった声が多く聞かれました。男性が実感として落とし込まれるきっかけになったようです。
松本さん 参加した営業所長から一人ずつコメントをいただいて、社内SNSで「明日からこうする」という宣言もしてもらいました。所長が体験キャラバンに参加してくれたことで、部下の女性社員にとっても「これで相談しやすくなった」「上司がそういうマインドを持ってくれているんだ」という安心感が生まれたようです。これはすごく大きな変化だと思います。 痛みは生理痛に限りません。そのため、男女に関係なく、見た目では分かりにくい不調であっても言い出せる環境にしたいと考えています。これは職場に限らず、家庭でも配慮が必要な問題だと思います。
縄村さん マネジャークラスの管理職もたくさん参加してくれました。女性は自分から生理痛による体調不良を言いにくいですし、男性管理職も「休暇を取るほどのことなのか」となってしまいます。しかし、男性上司が生理痛を疑似体験することで会話にしやすくなるし、お互いのコミュニケーションも円滑になったと感じています。女性が言葉に出しやすくなったのは大きなポイントではないでしょうか。また、痛みは女性の生理痛に限ったことではありません。目に見えない痛みについて社員で話しあう機会を持ったことは、男性、女性に限らず、働きやすい環境づくりにつながったのではと思います。
⸺製薬業界は男性社員の方が多いイメージがあります。その環境の中で、どのように女性活躍を推進してきたのでしょうか。
松本さん 当初は、主旨に賛同してくれた男性社員が20〜30人集まってMAAを立ち上げました。本社だけで見れば役員や管理職の女性登用は進んでいますが、本当に変革を起こしたいのは男性比率の高い名古屋工場や営業部門です。先ほどお話したように、私が所属したMRという営業部門は男性中心で、女性に対する古い価値観が少なからずあったのは事実です。しかし、その後、今から約10年前に本社に異動してきた時、ロールモデルとなる女性がたくさんいましたし、性別関係なく活躍している部門も多くありました。 女性管理職比率や男性育休取得率といった数字を追いかけることを主目的にせず、「ジェンダーに関わらず活躍できる会社を目指したい」、そして「部門間ギャップをなくすために全社に広げていきたい」という思いで、本社だけの活動にとどまらず全国でイベントを実施するなど活動を広げてきました。
縄村さん 私たちJPWRは草の根的なボトムアップの組織で、「活躍したいけれど制約がある」という女性の声を吸い上げる場所でもあります。経営者から見た時の数字も大切ですが、役員の立場で関与する嶋村、社員の立場で関与する松本が、co-leadとして横並びで一緒に活動している最大のメリットは、働きやすい環境づくりを最優先できることです。その結果として、数字がついてくればいいという考え方が根底にあります。
松本さん 社員ボランティアで活動が継続できているのは、一人ひとりがファイザーという会社が好きで誇りに思って働いているのが原動力になっています。自分が働いている会社の環境を良くしたいという思いをみんな持っていますし、新たな参加者が増えることで好循環が生まれ、社員自身も成長できる機会になっています。
縄村さん 私が管理職になった頃、正直に申し上げると私自身の中に、女性の働き方に対する知識や問題意識はほとんどありませんでした。「女性だから」という認識もせず、悩みを深く考えることはなかったのが正直なところです。ただ、私は大学新卒で入社してファイザーしか知らないので、他社や世間がどうなっているかをほとんど知らず、少しギャップを個人的に感じていました。ある時、女性の上司から「あなたは働きやすいかもしれないけれど、部下も含めて全員がそうではない。その世界を知ることで視野が広がるかもしれない」というアドバイスをもらいました。その考えに納得できたので、JPWRに参加してみたいと思うようになりました。実際に活動に参加してみて、会社全体でジェンダーエクイティを眺めたときに、女性ならではのキャリアに関する課題などに触れることもありました。また、いいチームというのはみんなが発言しやすく活躍しやすい環境を作ること、それが最終的にはエンゲージメントや成果に結び付いていくと考えられるようになりました。
⸺女性の登用についてはバイアスがかかるといわれますが、ファイザーではいかがでしょうか。
縄村さん 当社には「ペイ・フォー・パフォーマンス」という、成果に応じた報酬をという考え方があります。そのため、管理職登用する際も男女関係なく適正な人間を見極めてると思います。ただ、今の活動を通して気づいたのは、ラインマネージャーとして「もっと活躍してほしい」「実力がある」と思う女性がたくさんいるにもかかわらず、「私なんて」と手を挙げない人が多いということです。これはすごく大きな課題だと感じています。職場環境や個人のバイアスをなるべく外してあげたいと考えていて、まさに今年のテーマがこの「アンコンシャス・バイアス」です。 悪気なく自然にバイアスをかけていることが多々あると思います。例えば、子どもの迎えで早く帰りたいという女性社員はいても、同じ状況でそれを言う男性社員は女性よりは少ないように感じます。また、男性が育休を取得しても、取得期間は女性より短い。もしそこに何らかのアンコンシャス・バイアスがあるのであれば、みんながそれに気づいてほしいと思っています。 そのために大切なのは、部下との対話です。女性が遠慮しているシチュエーションもあれば、男性が気を使いすぎている部分もあります。ちょうど今、有志の社員で制作した啓発動画をリリースしましたが、今後もこうしたコンテンツを積極的に社内、そして社外にもSNSを通じて発信していきます。男性側から見た変なバイアスがないかどうか、女性側が勝手に躊躇・遠慮しているようなバイアスがないのか、少し深く踏み込んで議論していくつもりです。
⸺これまでの活動はかなり手応えを感じているようですね。社外への発信やアライアンスなども考えているのかも含めて、今後の展望をお聞かせください。
縄村さん 生理痛キャラバンや国際男性デーの反響もそうですが、社内SNSでの私たちの発信を見て「いいね」ボタンを押してくれたり、コメントをくれたりする社員も増えています。MAAの活動が全社で認められ、「女性も男性も、性別にかかわらず誰もが活躍できて、お互いに不必要な気を使わなくていい職場環境が大事」という理解が浸透してきたことがうれしいですし、心強いと感じています。 当社のような取り組みは、企業規模にかかわらず参考にしてもらえるポイントは多いと思います。役員の支援は大きなバックアップになっていて、社員ボランティアの活動時間を勤務時間として扱ってもらえるのはすごく活動しやすい環境ですし、お互いに良い会社を一緒に作れるのはすごくいい関係だと思っています。 社外に広げていくためには、まずは社員が自分の家族とこの話題について話をして、友人・知人とも話題にする。そして、最終的に社会が変わるような活動になればいいと思っています。社会にどう影響を与えていけるのかは大きな課題で、当社の社長も「当社のDEIの活動は社会も変えていく」とまで言ってくれています。製薬企業でありヘルスケア企業でもあるので、みんなが健やかに健康に暮らせる社会の実現は、企業としても非常に重要なテーマです。そのためには、自社の社員だけでなく、世の中にとって意味のある活動になれば、ヘルスケア企業として幸せなことだと思います。
松本さん ファイザー社内で女性が働きやすくなっても、家に帰ると別の会社に勤めるパートナーがいますし、例えば義理のお母さんや親せきなど、「お母さんはもっと家にいるべき」といったプレッシャーは、「こうあるべき」という無意識の思い込み、つまりアンコンシャス・バイアスですね。そのため、課題や問題意識をもっと世の中に広げていこうと、まずは業界団体である「Healthcare Businesswomen’s Association」(HBA)に働きかけています。HBAは世界各国で80以上の拠点がありますが、日本でも2023年10月に「HBA Tokyo」が設立されました。立ち上げたのが、当社の井村 佐をり(取締役 執行役員 製造部門長)ということもあって、HBAの方たちに当社の社内イベントに来ていただいたり、HBAのイベントに当社から情報発信したりして、今後も連携を強めていくつもりです。 社会のアンコンシャス・バイアスに気づきをもたらすためには、自治体との協業も重要だと思っています。行政が変わると様々な世代に対して良い影響が波及していきます。 今の会社や社会は、男性がマジョリティとしてつくってきたのは事実です。そうした方たちの心情に寄り添いつつ、「自分たちが育ってきた環境と今の時代では状況が変わってきている」「これから未来をつくっていく社員のために、自分たちもやはり変わっていかなければならない」と気づいていただく必要もあると思っています。決して上から目線ではなく、こうした気づきを得ていただくことが大事な一歩になります。SNSの会話や、自治体を通じた啓発など、あらゆるところで話題になっていけば、世の中も少しずつ変わっていくのではないかと期待しています。
◆次回予告◆次回(第8回)は、女性活躍推進に取り組む企業として日立製作所の事例をご紹介します。事業領域が多岐にわたり、女性が孤立しやすい環境にある同社では、きめ細かな施策でタテとヨコのつながりの強化に努めています。具体的な取り組みと成果などについてお話をうかがいました。