東京都

第10回
キャリアアップを阻む「自信のなさ」
自分なりのミッションを持って
前向きに挑戦を

株式会社キャリエーラ
● 代表取締役
藤井 佐和子 (ふじい・さわこ)

東京都が推進する「東京女性リーダーズ応援ネットワーク」が提供するプログラムの1つ「女性リーダー育成プログラム」は、管理職やリーダーを目指す女性、キャリアアップに関心ある女性を対象に、これから必要となるマインドや知識、スキルなどを学んでいただくものです。今年度は「若手社員向け」「中堅社員向け」「管理職層向け」の3コースで、それぞれ計4回開催。講師を務めたダイバーシティーコンサルタントでもある藤井佐和子氏に、プログラムの振り返りを含めて女性性活躍推進の現状と展望を聞きました。

[聞き手]日経BP ライフメディアユニット長 佐藤 珠希

■ 働き続けることを前提にしているが、キャリアビジョンが不明確

⸺「女性リーダー育成プログラム」では若手・中堅・管理職の全コースで講師を担当していただきました。それぞれの受講生が抱えていた課題の共通点や相違点など、印象に残ったことをお聞かせください。

 3つの階層とも職場環境や課題などはある程度共通していましたし、各階層の受講者同士は年代が近いこともあってディスカッションも活発でした。多く聞かれたのは「自分の会社は女性活躍がまだまだ進んでいない」という声。業界や企業によって差があると認識しながらも、女性活躍推進の取り組み事例を自社に持ち帰っていました。
 キャリアについては、会社からリーダーとしての活躍を期待されている中で、どの人も前向きにチャレンジしたいと考えていました。ただ、「いざとなると、やっぱり自信がない」という人がどの階層でも多いと感じました。一方で、若手社員においては昔と比べると長く働き続けることが前提となっているので、「管理職を目指す選択肢は大事な軸」と捉えていたのは印象的でした。

近年の調査を見ても、長く働き続けることを前提にキャリアプランを考える若手女性が増えたと感じます。一方で、仕事とライフイベントとの両立に不安を抱えている人も多いと感じます。

 5〜10年前の20代と比べると、今は男女平等で成果を上げるのが当たり前になってきていると思います。一方で、働き続けることを意識しているものの、キャリアビジョンがまだまだ不明確な女性が多いと感じました。

 例えば今回の受講者からは「いつも雑用を押し付けられてしまう」という声が上がっていました。多くの企業や部署には「評価されづらい仕事」がありますが、出世志向の男性たちは、評価されない仕事には手を挙げたがらない傾向があります。そうした仕事を「私、できるからやりますよ」と引き受け続けていると、「こんなに一生懸命やっているのに雑務ばかり」となってしまう。良し悪しは別として、自分の目指すキャリアにどんな経験が必要かについて、もう少し戦略的に考えることが必要かもしれません。手を挙げて雑務を引き受けるのはいいとしても、上司にきちんと評価してもらったり、「代わりに私のこの業務を誰かに振ってください」と交渉したり。

 これについては上司の責任も大きいと思います。誰かが引き受けないと部署として困るわけですが、本来高いスキルがある人はもっと違う方向で活かすことを考えればなければいけません。人を育てる意識がない管理職がいるのは、企業の大きな課題といえます。

様々な企業の人材育成コンサルティングや研修をされる中で、そのような課題を抱えている企業は多いと感じますか。

 多いですね。例えば、女性社員の育成について聞くと、上司は「女性の部下にチャンスを与えている」と答えるのに対して、女性部下は「期待されていない」と正反対の回答をします。そのギャップをどう埋めていくかが課題です。
 企業規模が大きくなると組織は縦割りになりがちです。そのため、「うまく育成できている管理職」と「できていない管理職」がディカッションするような機会を与えると、会社としてノウハウが共有されます。男性管理職に向けた「女性部下育成研修」も効果があると思います。というのも、男性管理職が「女性部下の育成に悩んでいる」とはなかなか口にできません。だから、困り事や悩みを打ち明けられる場は貴重です。「うちはこうやってうまくいっていますよ」という他部門や他社の成功事例は参考になりますし、「うちは遅れている」といった気づきにもなります。女性リーダーの育成には、こうした男性管理職向けのアプローチも大変重要だと思います。

■ 明確な目的があるとチャレンジできる女性は多い

女性の多くがしっかりとしたキャリアビジョンを持てていないというお話がありました。これは社内にロールモデルが少ないことが関係しているのでしょうか。

 確かにロールモデルが少ないという問題もありますが、ロールモデルのイメージとして「100%自分の理想に当てはまる人を探し求めがち」ということもあります。「あの先輩は確かにすごいけど、両親が近くにいて育児を助けてもらっているし」などと、自分との違いに目がいってしまうという人が少なくないと感じます。研修でも話しましたが、自分のイメージする理想をすべて併せ持った女性を探すのではなく、“パーツモデル”という考え方をしてほしい。「この人のここ」「あの先輩のここ」と“いいとこ取り”をして、自分の理想像をつくり上げるんです。ロールモデルは別に社内の人である必要はありません。社外や世の中には「素敵だな」と思える人はたくさんいますからね。

 もう1つの課題は、女性は自分に自信を持ちにくいということです。例えば、管理職に推薦されるということは、客観的に見て「優秀な人」と認められたから推薦されたわけです。にもかかわらず、本人が怖気付いて「いいえ、私は遠慮します」と尻込みすると、「じゃあ、他の人に」となってしまう。これでは、本人にとっても会社にとっても良くありませんよね。手を挙げた人だけにチャンスを与えるのではなく、「自信がないけどできそうな人にいかにチャンスを与えるか」という観点で周りがサポートしないと、自分に自信を持てない女性はなかなか上に上がれません。

「自信がない問題」はなかなか改善しませんね。10年前とあまり変わらないような気もします。

 自信を持てなくても構わないので、正しく自己分析ができるようになればいいと思っています。できないことや苦手なことだけでなく「できること」も自分でしっかり認識することが大切です。人から褒められた時に「そんなことないですよ」と謙遜するのではなくて、「ありがとうございます。それが私の強みです」と素直に言えるように、徹底的に自己分析しておくといいと思います。

 一方で、自信がなくても目的があるとチャレンジする女性は多い。以前、「管理職になりたくない」と言っていた女性が、私の研修を受けたことをきっかけに「自分がひよっている姿を娘に見せたくないのでチャレンジします」と前向きになってくれました。自分のためではなく、「自分の子どもや家族のため」「自分の後に続く後輩のため」といった意味付けができると管理職を引き受けやすいのかもしれません。仕事をする意味や意義を自分に問い直して、それに自分のミッションが重なれば前向きに頑張れると思います。

■ 大企業と中堅・中小との「取り組み格差の解消」がカギ

女性がリーダーとして活躍するために、どのようなスキルを磨くといいとお考えですか。

 今回の研修参加者は、コミュニケーションスキルの高い人が多いのが印象的でした。受講者同士がすぐ仲良くなって、休憩中もずっとおしゃべりをしていました(笑)。普段から意識して人との接点を増やすことで、コミュニケーションスキルを仕事に活かせると思います。会社は基本的にタテ組織ですが、社内のいろいろな部署の人と人脈をつくってほしいですね。いろいろな情報も仕入れられますから。

 一方で、コンセプチュアルスキル(概念化能力)を磨く必要性を感じました。物事の本質や課題を見つける力を身に付けるために、いろいろなことを勉強するといいと思います。1つのことを深く勉強するというよりも、読書やセミナーなどを通じてリベラルアーツ的なものを幅広く学ぶと、いろいろなことがつながってきます。結果的に物事の全体像が見えたり、視野も視座も変わってきたりするので、意識的に様々なことをインプットしてほしいですね。研修では、リーダーを目指すハードルとして、「男性と比べると経験が足りない」「産休・育休でブランクができる」といった声もあがっていましたが、知識を得ることは自分の意志と努力でできますから。

 研修では、婦人科の医師による「女性のキャリアと健康」についての講義もあり、先生が「ワークライフブレンド」についてお話されたのですが、私もキャリアの考え方としてそれが大事だと感じています。ライフでの経験はキャリアに使えるし、逆にキャリアでの経験もライフに使えます。その意味で「ブレンド」なのですが、自分がライフで発揮した強みをどうやって仕事で活かせるのかを考えることが重要ですし、会社もそれを認めることが大切だと思います。

企業における女性活躍は、着実に進んできていると感じますか?

 大企業はかなり施策が充実してきていると思います。有価証券報告書で女性管理職比率、男性育休取得率、男女間賃金格差の開示が義務化され、株主が重要視する情報となりました。また、ビジネス的にグローバルでの戦いになっているのを経営者が肌で感じており、そこを見据えた上でダイバーシティに懸命に取り組んでいます。
 それに対して、中堅・中小企業の意識はまだまだ変わっていないのが現状です。中間管理職はどうしても目の前の業務が忙しいので、「女性部下の育成を」と言われても、それどころではないというケースがまだまだ多いのではないでしょうか。

 中小企業では大手企業以上に人材確保が困難ですし、今後さらに厳しさを増すでしょう。大企業の多くは社長直轄あるいは人事部門の中にダイバーシティ専門部署を設けていますが、中小企業では採用も育成もすべて1人あるいは数人で担当しているところも多いと聞きます。社員教育への投資をしぶる経営者には、「社員は勝手に育つもの」という思い込みがあることも。そういう企業の人事担当者こそ、こうした研修やセミナーを積極的に活用してほしいですね。他社の事例や社会の動きを情報収集して経営者に訴えてほしいと思います。
大企業と中小企業の取り組み格差が解消されれば、日本の女性活躍も一気に進むと思いますし、女性管理職が育って持続的に活躍できるようになれば、社会も大きく変わっていくと期待しています。