日経BPライフメディアユニット長佐藤珠希 Tamaki Sato
第1 回は、働く女性のキャリアを支援するメディア『日経ウーマン』発行人(日経BP ライフメディア ユニット長)である佐藤珠希氏に、取材を通じて見えてくる企業の女性活躍の現状と課題について聞きました。
⸺女性の活躍・登用に関して企業の取り組みは進んできているのでしょうか。 今年は「男女雇用機会均等法」制定から40 年、「女性活躍推進法」制定から10 年の節目になります。雇用の均等という面では、この40 年で大企業を中心に着実に進んできたと思います。 また、1990 年代には第一子出産を機に約6 割の女性が退職していましたが、今では約7 割の女性が仕事を続けています。育休制度や保育園などの整備が進み、仕事とライフイベントを両立できる環境が整ってきた証拠です。 一方で、正社員と非正規社員では、仕事と育児の両立のしやすさに大きな差があります。 女性はまだ非正規で働く人の割合が高く、その比率は52.6%と、男性の22.5%の約2.3 倍に上ります(表参照)。雇用形態や働き方を問わず、仕事と育児を両立できる環境を整備することは、少子化対策の観点からもとても重要だと考えています。
■正規・非正規の職員・従業員の比率
正規の職員・従業員
非正規の職員・従業員
非正規比率
出典:総務省統計局「労働力調査」2024 年度平均
⸺女性管理職比率は1 割台と、3 ~ 4 割の欧米諸国に大きく後れを取っています。また、日本では管理職になると猛烈に働かなければいけないという固定観念があります。 そうですね。そこを変えないと、女性だけでなく男性も管理職を目指したい人は減ってくると思います。日経ウーマンが実施した2025 年版「企業の女性活躍度調査」でも、管理職の有給休暇取得率は、非管理職より15 ポイント低いという結果が出ています。 また、若い人たちの意識や価値観が大きく変わり、プライベートを大切にしたいという社員も増えています。多くの職場で人手不足が深刻化する中、管理職やリーダーは部下やチームメンバーを束ね、成果を出していかなければいけません。大学生の意識も変化しています。就活中の男子大学生が「御社のLGBTQ+に対する取り組みを教えてください」「男性社員の育休取得率はどうなっていますか?」など、ダイバーシティに関する質問が増えていると、企業の採用担当者からよく聞きます。 特に女性社員が相対的に少ないB to B 系の製造業の幹部の方には、「女性活躍や管理職・リーダー育成、ダイバーシティ推進に本気で取り組まないと、優秀な若い人たちが来てくれない」との危機感を持っている方も多い。今の就活生は、多様な働き方ができる制度と風土があるかを重視して企業を選ぶ傾向があり、「自分のキャリアは自分でつくりたい」「個性や長所を生かして活躍したい」と考える人が増えています。 ダイバーシティへの取り組みを気にするのも、社員一人ひとりの生き方を尊重することが企業の評価軸の1 つになっているからです。
⸺働く女性自身の意識の変化についてはいかがでしょうか。 女性活躍推進法ができるまで、多くの企業の女性活躍への取り組みは、仕事と家庭の両立支援とワークライフバランス施策が主で、女性の「就労継続」と「働きやすさ」の実現を目指すものでした。 しかし、この10 年で、女性が真に活躍するには「働きやすさ」だけでなく「働きがい」を実現することも必要だという認識が広がり、キャリア支援に力を入れる企業も増えてきました。 両立支援のみならず、女性リーダー育成に取り組む企業の裾野がかなり広がってきました。 一部の企業側からは「管理職になりたがらない女性が多い」といった悩みが聞こえてくることもあります。 一方、女性社員には、ハードに働いている男性管理職や女性管理職を見て「私にはあんな働き方はできない」と躊躇する人や、「ロールモデルとなる人がいない」と嘆く人も少なくありません。
出典:日経ウーマン2025 年版「企業の女性活躍度調査」
⸺若い人たちはまた違った考え方がありそうですね。 取り組みが進んでいる企業は、「管理職の働き方自体を変えないと女性管理職は増えない」「トップダウン型の画一的なリーダー像に縛られていては、多様な人材の活躍は実現できない」と気づいています。 旧態依然とした男性中心の同質性の高い組織風土では、女性が登用されてもうまくいきません。 一番大事なのは経営トップのリーダーシップです。女性活躍やダイバーシティ推進が自社にとってなぜ必要なのか、明確なメッセージを社員に伝えた上で、制度や風土を改革して組織全体を大胆に変えていく必要があります。管理職やリーダーを目指す女性のキャリアをサポートする体制、やりがいや働きやすさを実感しながら活躍できる風土や環境整備が必要だと思います。
◆次回予告◆後編(第2 回)では、女性が管理職やリーダーになる上でのハードルや自信を持ちづらい心理的・社会的背景を探るとともに、“強いリーダー像” とは異なる、多様な人材が自分らしく活躍できる企業風土や社会を考察します。