働き方と女性活躍
- 白河 桃子
- 相模女子大学大学院特任教授
昭和女子大学客員教授
「やるべきことは全部やってきたが、女性が管理職になりたがらないのです」
経営者の方はおっしゃるのですが、働き方改革、管理職要件の変更、評価の改定などの「土台」の整備はされてきたのでしょうか。みなさんの会社は今女性活躍の段階のどこにいるでしょう?ぜひ下記の表でチェックしてみてください。
図のようにフェーズ1は雇用機会均等法、「男性と同じように働くなら仲間にいれてあげましょう」というものでした。多くの女性がライフイベントを乗り切れず離職していきました。フェーズ2は「女性に優しい企業」。両立支援制度を拡充させ、ライフイベントでの離職をなくし、働き続ける女性を増やす時代です。2010年の「時短勤務」の措置義務化によって、正社員なら7割の女性が第一子出産後も働き続けるようになりました。その後2016年に女性活躍推進法が施行され、ただ働き続けるだけでなく、女性も管理職を目指してほしいという流れがきます。しかし「子供を産んで育てて働き続け、さらに管理職にも」というリクエストは厳しいものがあります。女性たちが「管理職になりたがらない」というところで止まっている企業は多いのではないでしょうか?
その後の新たな流れがフェーズ3の「働き方改革」です。女性活躍のためだけではありません。全員が生産性の低い長時間労働を脱却していく方向性です。さらに新型コロナでテレワーク、フレックスタイムなど働く場所と時間の柔軟が進みました。2023年からは男性育休の拡充により、男性の家庭活躍も動き出しました。ここでやっと女性活躍の環境整備ができてきたのです。男性OSの働き方をそのままに女性活躍は果たせません。女性に対する育成や、ポジティブアクションも必要ですが、働き方の柔軟化、管理職要件の見直し、ITによる仕事の効率化、幹部へのアンコンシャスバイアス研修など、先進企業は女性だけでなく全体に対して施策をしています。複数担当制で誰が休んでも回る職場にすることで、全員が休みやすく働きやすくなります。女性活躍は女性だけのものではなく多様な誰もが活躍するためのものです。
ある企業では男性育休の1ヶ月の義務化を経て、女性活躍の数字も上がってきました。なぜなら育児経験者が増えることで両立への理解が進み、両立する女性たちも働きやすくなったからです。
そして一番必要なのは「目的」です。特にトップが「なぜ自社には女性活躍が必要なのか」という目的を明確にもって開示することが一番の推進になります。
それでは「目的」とはなんでしょう? 「政府が女性活躍を推進するから」という理由で、目的もなく取り組んできた企業にいはなかなか結果がでません。最近女性活躍に本気度の高い企業が増えてきました。その目的は「同質性のリスク」からの脱却です。日本の伝統的な企業は社員の平均年齢は50代に近く、また上にいくほど男性が多い。管理職は新卒からの同期で昇進を競い、最終的に同じ年齢層、同じ性別(男性)が経営層に上がります。経営会議はほとんど同じ年齢の人ばかりで、女性比率は非常に低い。同質性が大変高いのです。同質性は「イノベーションが起きない」などの弊害もありますが、一番のリスクは見逃しが多く、集団浅慮が起きやすいのです。集団浅慮は個人の総和よりも質の低い決定が行われる現象です。
以下の集団浅慮の中で起きる事象を見れば誰もが自社の事例を思い浮かべるのではないでしょうか?
- 1)集団の実力の過大評価
- 2)不都合な悪い情報を入れない
- 3)内部からの批判や異議を許さない
- 4)他の集団をきちんと評価しない
- 5)疑問を持たないように「自己検閲」が働く
- 6)全員一致の幻想を持つ
- 7)逸脱する人を許さず、合意するように働きかける
- 8)集団内の規範を重視する
同質性の集団は正解率も低いのです。米コロンビア大学ビジネススクールの実験では、問題を解かせたときの正解率に顕著な差がありました。ひとりでは44%の正解率、友人4人(画一的グループ)では54%、友人3人と他人1人(多様性グループ)では 75%まで正解率があがります。
多くの企業不祥事、金融不正やデータ改ざん、パワハラ、炎上などの背景には同質性があるのです。変化の激しい時代には、「多様な視点」による解が必要です。日本のようにジェンダーギャップの大きな国では女性と男性は経験において大きな差があります。視点は経験値から培われるので、まずは女性の視点をいれてみましょう。多様な視点を持つ人が決定に加わることが同質性のリスクを防ぎます。女性活躍とは女性のためだけなく、今後の企業の持続可能生のために必要とされていることなのです。